59.セレステラのこと
セレステラはアベルト・デスラーをどう思っていたのだろう。
ユリーシャに間違われた森雪がガミラス星に居た時に「愛しているの?」と尋ねると一笑に付していた。
同郷のたった一人の同胞ミレーネルが死んだことを個人的に悼む様子を見せたアベルト・デスラーに対しても、自分は総統にずっと忠誠を誓うというような事務的な言葉で応答していた。
そして、ここでセレステラの忠誠の言葉を聞いたアベルトは「忠誠か」と意味深に呟くのであった。
彼女はアベルトの唯一の愛の対象がスターシャであることをずっと以前から分かっていたのだろう。
それは心を読んだのではなく(敬愛するアベルトに対しては能力は使わないと決めていただろう)近くに仕えていれば察せられるほどアベルトのスターシャに対する執心は強かったと思われる。
セレステラは女としての愛を総統に対して抱くというようなことは自分に固く禁じていたと思う。
彼女にとっては収容所から救い出してくれたアベルトの存在が心の支え全てであり、その他のものは何一ついらなかった。
そばで仕えることができるだけで十分幸福であった。
忠誠心を持ってひたすら全てを奉げて総統の為に生きるのが彼女の望みであったろう。
そんな形でしか、傍に居られないことをセレステラは痛いほど分っていたからだ。
セレステラがそうやってアベルトの元で仕えている限り絶対に二人の間に恋愛関係はありえなかっただろう。
セレステラの誤算は女としてではなくとも、アベルトにとっても自分は代え難い忠臣(人間)であると信じていたことだ。
その自分を何の躊躇いもなく見捨てて、デウスーラⅡ号でバレラスから離脱したアベルトを目にした時に彼女の自負は完全に打ち砕かれた。
そしてガミラスの現政権側から総統の座を追われることになるだろう立場のアベルトを思った時に、初めてセレステラは、ヤマトの艦内での雪との会話の中で、総統ではなく「あの人」とアベルトを呼ぶ。
セレステラは総統ではないアベルトと、もうガミラスに帰るつもりもない一介の女となった自分に向きあった時にやっと女として彼を愛していることを自覚したのだろう。
アベルトは虚ろな人と私は感じている。
虚ろを埋める何かをアベルトはずっと欲していたのではないか。
アベルトの周りには服従の形で忠誠を誓う人は多くいただろうが、もっと真っ直ぐに正面から飛び込んでくるような愛情で彼と接する人はいただろうか。
おそらくいないだろう。
そしてそれはアベルト自身が他者をそのように愛することがないからでもあろう。
自分に服従しない唯一の女スターシャにあれほど執着しているのもこのことと関係していると思う。
もしも、セレステラがもっと以前にアベルトに対して違う接し方をしていたらどうだったか?
忠誠よりももっと真摯にアベルトに心のままに愛を奉げていたならば、アベルトの空虚さは少しでも埋められたのだろうか。
あのイスカンダルの青い小鳥、あれの意味を考えている。
あれはスターシャにもらった小鳥だと思う。
大切に何年も育てていたアベルト。
スターシャの意志を無視して強引に大統合に進む決意をしたということで殺したのだろうか。
それとも、あの青い鳥、すぐそばにいた、幸福の象徴。
だだひたすらに見返りを求めぬ愛をもって全てを奉げて仕えたセレステラ。
そしてガミラスで彼の演説に熱狂していたバレラスの人々、人々もアベルトを信じ敬愛していたのだ。
アベルトはセレステラも、彼の臣民も顧みることなく、遠く届かぬスターシャだけを見続けた。
彼は服従の忠誠を物足りなく思っていたのかもしれないが、それも得がたい愛であったことが分らなかったのは悲劇であった。
自ら手にかける形で、その愛さへ全て失い破滅へ向かうことの象徴としての小鳥の死だったのかもしれない。
「世界の大部分は片想い出来ている、そして片想いは美しい」
私がドラマ「泣くな、はらちゃん」で心に残った言葉であるが、まさしく世界は片想いで出来ている。
そして、セレステラの片想いは、ずっと死ぬ瞬間まで無私であったゆえに、最後まで美しく悲しいのだった。
セレステラは惨めで哀れに愚かしく死んでいくアベルトを目にする前に、愛したアベルトに撃たれて死ねたことを、むしろあの世で感謝しているかもしれない。
60.「2199」のスターシャのこと
スターシャってアベルトのことどう思っていたのだろう。
私は感想文の№3「2199のスターシャについて」という文できつくスターシャをこき下ろした。(あの時、頭に血が上ってたし…笑)
私があれを書いたとき感じていたことをかいつまんで書いてみる。
二人には若い頃親密な時代があって、その後のアベルトの版図拡大路線が許容できなくて、結果、二人の間に埋めがたい溝ができたと思われる。
そして、スターシャの備え持った色っぽさゆえなのか(笑)、無責任ともいえる優柔不断な性格なのか、毅然とイヤ!と意思表示しないことが、相手になまじっかな期待を持たせるようなことになっているのではと思った。
別にあなたが、普通の一般の庶民ならいいですよ…、どんなでも、世にさほど大きな影響を与えないでしょうから…。
同時に、この人自身が、いつも誰かにすがりたいというような女の業というか、弱さのある人物で、自分をひたすら求めてくれるアベルトを完全に切ることを心のどこかで、躊躇っているのではとも思った。
スターシャとアベルトは精神的にグダグダのつかづ離れずの間柄で続いていたのではないかと感じたのだ。
しかし、ちょっとこの見方は、スターシャに厳しく意地悪過ぎるかと反省している。
落ち着いた私は、もう少し好意的に彼女を考えてみた(笑)。
この人、能動的ではないように見える。
その割に宣うことはやけに偉そうで大仰である。
「あまねく星々、その知的生命体の救済、それがイスカンダルの進む道」代々そういうのを家訓に自星のいにしえの行為の贖罪をしているのかもしれないが、実際、人ももういないし、言葉だけでそんなこと豪語しても空しいだけでしょ。
誰もいなくなって何も出来ないような状況に自分の星がなっていて今後どうしていくのか。
本人もそのことが分かっていながらも、役割に縛られて身動きできず苦しんでいたのかもしれない。
私がみるに、この人にはあの星の女王は荷が重すぎるだろう。
この人は女王の器ではない。
しかし、優柔不断なのか、そのまま機械のように「あまねく星の生命体の救済」を唱え続けるのだ。
セレステラが「自分の手を汚さない」とスターシャを苦々しく語る場面があったが、あれは的を射ているだろう。
そして身動きのとれなくなっているスターシャを解放してやりたいと思ってアベルトは「私が君に代わって」提案をしたのだろう。
勿論自分になびいて欲しいとの下心もあるだろうが、この時点でのアベルトもそんな悪い奴じゃなかっただろう。
あの時点ではもしかしたら二人はさほど深い仲ではないだろうが、普通よりはずっと親密な気持ちで向き合うぐらいの間柄だったかもしれない。
アベルトはあの神々しいほど美しく、その上自分たちからしてみれば敬愛の対象の存在のイスカンダルの女王でもあるスターシャがどうしても欲しかった。
一方、スターシャは尊い身分のスターシャではなくて、ただの女としての自分を見てくれるような人を求めていたのかもしれないような気もする。
まあ、詰まるところ男女の間は虫が好くとか好かないとか、そういった理屈ではない部分が意外と重要な要素である。
スターシャには結局アベルトは恋愛のお相手としてはダメだったのであろう。
そしてこの虫が好くとか、一目惚れとかいう曖昧な評価基準は感覚的だが、案外深いものであると私は思っている。
性格がいいだの、何々が気に入っているだのという具体的理由を言葉で探すより、意外と一目惚れ等の直感的なものの方が人の深い部分を感じとっているような気もする。(野生動物か?私は・笑)
なので、お隣さんだし、以前から知ってるし、たいそう慕ってくれてるようだけど、恋愛対象の異性としては、もひとつ惹かれなかったのだろう。
アベルトの性格を含めて案外いろいろ自分に合わないのを自然と感じとっていたんじゃなかろうか。
だから絶対にアベルトの子供は生みたくないということでしょう、…アベルト…なんか可哀想すぎ(笑)。
でも、これって女にとっては絶対譲れない部分かも。
その点、守にはビビッときたということであろう。
見たところ、すごく守にいれ込んでいるような感じであった。
まあ、きっと男女とはそういうものなのだ。
スターシャはああいう男が好きだったのだろう。
フウッ…、「2199」結構生々しい展開だったなと、ちょっと思う(笑)。
61.ラスボスとしてのアベルト・デスラーのこと
アベルトって何でも持っていて、でも結局何も持っていない人のように見える。
とにかく虚ろというか。
いつからこんななのか?
若い時はこんなではなかったのか?
スターシャに受け入れてもらえないのでこんなになったのか?
それともぼんぼん育ちで苦労が足りないせいなのか?(笑)
心の空虚を埋めようとしてスターシャを手に入れようとしているのか、スターシャの愛を欲しているのか。
アベルトはスターシャを愛していると言うが、それって本当か?と思う。
あの若き日のプロポーズみたいな「きみの使命を私が果たそう。約束するよ。きみの願いはこの私が叶えてみせる。そして全ての星に平和を…。」は、相手に対する自分の気持ちの宣言として可かもしれない。
けれど、デスラー砲をヤマトに向けて発射した後、スターシャに抗議されると「君の為にやっているのだ」と言っていた。
おそらく今まで何度もこういった「君の為に」発言はあったかもしれない。
以前ブログにも書いたが、「君の為」ってなんだ?
「君の為」って言った時点でもう「君の為」ではないだろう。
愛の押し売りみたいなもので、いや、そんな気持ちは愛ですらないだろう。
アベルトは自分が押し進めた武力による宇宙の平和実現の有様がスターシャには受け入れてもらえないことを途中で分かっていたと思う。
しかし、もうそれを止めることも出来なくなっていたのだろう。
それを止めることは自分のスターシャに対する存在意義のなくなることだからだ。
「2199」のアベルトを見ていると、昔見た「レイアース」のエメロード姫とザガードのことと「北斗の拳」のユリアとシンのことを思い出す。
愛する女の為に、いや、自らの情欲の為に道を誤った人物たち。
レイアースは両想いだからまだ救われてたかな(笑)
「2199」は旧一作目のように退くに退けない両星の対立の物語ではない。
が、一応ヒーローものであるから、やはり敵側が必要なのだ。
ラスボスに当たる役はアベルトが担わなければならないのだ。
こういったアニメに描かれる武力による侵攻、侵略の理由って突き詰めれば権力欲、金などへの物欲、激しい暴力衝動、そして誰かに対する愛の為ってやつであろう。
まあ、権力欲は必須だと思うが、それにあとの3つの内どれかがセットになってくるというのがパターンだと思う。
ちなみに旧作のデスラー総統は権力欲に激しい暴力衝動が付いていて、それに錦の御旗のような星の滅亡危機と移住計画という理由がくっついていた。
錦の御旗部分が無くなった「2199」はアベルトに権力欲にプラスする要素として愛の為というのをくっつけたのではないか。
他の要素に比べれば好意的にとれる要素ではあるかもしれないからだ。
きっと制作側もデスラー総統を嫌いではかったのかもしれないと私は思っている。
あの物語の設定で権力欲に他の要素プラスでは、気が引けたとか…。
しかし、その同情心(?)が贔屓の引き倒しのようなことになってしまった気もする。
勿論、これはこれでいいと思った人もいると思うが、旧作と比べて見た人の中には悪役としても、人としても矮小化したと残念に思った層もあると思うのだ。
私もその一人ですが。
まあ、私は旧デスラー総統に思い入れが強すぎるので一般の判断基準からは完全にズレてしまってるだろう(笑)。
アベルトもラスボスの役割なんだから、思いっきり惨めでどうしようもない奴でもそれはそれで有りで、嘲笑すべき人物として罪を背負って逝ってもらうのも一つの形なのだとも思うが…。
分かってはいるが、何か私の心はいろいろと波風がたち続けるのだった。(苦笑)
もう、旧のデスラー総統とは別キャラとして認識できるようになっているので、前の総統が貶められた云々との怒りはなくなっている。
そして、それに変わって新しいキャラとして見てみると、なんともいえない悲哀を感じている。
アベルトの最後からは情欲に溺れた人の愚かさや哀れさは十分伝わった。
あんなことで、どんだけ大規模な悲劇を招いたか、やりきれない徒労感である。
そして、自分の論理の矛盾をやっと自覚しそうになりながら、自滅しかない状況下でデスラー砲のトリガーを引くアベルトが最後の最後に思い浮かべるのが、再びあの若き日のスターシャへの誓いの場面だったとは。
「私がこの宇宙を救済しよう、あの時約束したとおり、君の為に」とあの時点でも思うか…。
結局それか、それだけなのか?
虚ろな上に、心にその気持ちだけがポツリとあるだけなのか。
きっとあの若き日の侵略に手を染める前の時点に戻りたかったのか?
あの時はスターシャともまだ、親密な状態だったのかもしれない。
あそこからもう一度、別の方法で彼女の望みを叶える道をやり直せたらと思っているのか。
そうしたら、今とは違っていたと後悔しているのか?それも今となっては所詮無理な話だが…。
とにかく哀れな人という気持ちでいっぱいになる。
そして見ているとなんだか非常に悲しく、やり切れなくなってくるのはどうしてだ。(ああ、混乱させられる!)
でもまあ、アベルトって自業自得なんだけどね(笑)
「こんな愚かなことをこの場面でもまだ言ってるよこの人は、ほんとにもうっ!バカヤロー!」と私は怒りながらも、その死に際したアベルトの顔の美しさに心をかき乱されたのだった。
そしてバックに流れる「第二バレラス」の曲に胸が締め付けられ、気持ちが混乱しながらも、よく分らないが…感動していたのだ。
あの場面に酔わされたというか…、あなたのあまりの愚かしさに怒る部分もいろいろあったが、もういいよ、許してやるよ!なんて思っていたりして…。
ああ、私自身も十分バカヤローである!(美形恐るべし!笑)
アベルトってとにかく分りにくい人だった。(これって製作側のせいで描写が少なすぎることが一番の原因だと思うけど・笑)
旧の総統は、いろんな悪い性格や良いところも、人格の中にぎっしり詰まり過ぎて、いっぱい入っていることで複雑な人だった。
アベルトは何考えてるのか分からないのは似ているけど、実は中に何もないのに驚く。
虚無があるだけなのだ、そのあまりの孤独に凍り付くというか。
あんな地位にあって美形なんだけど何故あんなに虚ろで孤独なのか…、これも今風悪役なのか?
きっと私がもっと若い頃だったら(高校生ぐらい)このキャラにもっとウケたかも(笑)。
今だって嫌い!っていう訳でもないけど…、見ていると頭にくるけど、何故か放っておけない…みたいな感じか。
私、文句言いながらうんと振り回されてるところをみると、この虚ろ男、なかなか隅におけないよ。(今回は混乱と混沌の感想だ・笑)